ひとくち税務・経営講座>最新医療経営トピックス:2025年を見据えた今後の診療所戦略
医療法人の設立
Point
医療法人の法的根拠と設立①
1.医療法人の根拠法令
医療法第39条
病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
2.医療法人の責務
医療法第40条
医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上及びその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすように務めなければならない。
3.医療法人特有の禁止事項
医療法第54条
医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。
(※医業経営の在り方に関する検討会報告書)
・病院(診療所)の内部留保を通じた個人財産の蓄積や解散時の残余財産の分配が可能。また、営利法人によって事実上、医療法人の経営が支配されている事例が存在しているため、「非営利性」が事実上形骸化。
・医療法人制度は、非営利性を担保しながら、医療の永続性・継続性を目的としているが、これらの問題点は、主に社団法人における「持分」にある。
4.医療法人の非営利性の担保
医療法第56条
・解散した医療法人の残余財産は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除くほか、定款又は寄附行為の定めるところにより、その帰属すべき者に帰属する。
・前項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する。
5.医療法人の設立までの流れ
① 都道府県知事へ申請
② 都道府県知事の認可
③ 設立登記
④ 保健所への開設許可申請等
⑤ 社会保険医療機関の指定申請等
医療法人の設立時の注意点
1.法人の名称
既存の医療法人と重複する名称での設立は不可
2.事業内容(医療法第42条)
本来業務と附帯業務に限る
【本来業務】
病院、診療所及び介護老人保健施設の運営
【附帯業務】
イ)医療関係者の養成又は再教育
ロ)医学又は歯学に関する研究所の設置
ハ)社会福祉法第第二条第二項及び第三項に掲げる事業(訪問看護ステーション等)
ニ)老人福祉法に第29条第1項に規定する有料老人ホーム
ホ)他
3.社員の構成
・医療法人の最高意思決定機関=社員総会
・社員は各自1個の議決権を有する(医療法第48条の4)
4.役員の構成
・理事3人以上、監事1人以上(医療法第46条の2)
・理事長は原則として医師又は歯科医師(医療法46条の3)
・医療法人と関係のある営利法人の役員の理事への就任不可(運営管理指導要綱)
・監事と理事との兼任は不可。また、理事と特殊の関係にある者(親族等)の監事就任は不可(医療法48条、運営管理指導要綱)
5.過去実績
・1年以上の事業実績と黒字決算(東京は、現在のところ実績をもとめられていません。)が必要。
6.借入の引継制限
・設立時、医療法人へ引継可能な借入金は、固定資産取得に要した借入金など、医療法人へ拠出可能な資産の取得のための借入金であること。運転資金のための借入金は引継不可。
7.予算書の作成
・少なくとも法人設立後2年間キャッシュフローがプラスであることを示す予算書の作成が必要。
8.拠出資産の確定
・事業を行うにあたって最低限必要な物の拠出
・設立後2ヵ月間に要する運転資金分の拠出
9.決算月
・法人が選択する任意の月
・税法上の特典を最大限に利用する
・租税特別措置法26条に規定する社会保険診療報酬の計算の特例の適用の有無
個人の最終年と法人の初年度は特に有効の可能性あり
法人化のメリット・デメリット
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メリット |
デメリット |
運営 |
・事業の拡大ができる
(医療・介護関連事業)
・銀行などへの対外的信用の向上 |
・都道府県の指導監督の強化
→法人資産の役員の私的流用は問題となる
・事務の手続きが面倒
→認可申請、定款変更、役員変更、
事業報告書などの届出書類がある
・余剰金の配当禁止
→余剰金は内部保留しなければならない
+解散時の残余財産帰属制限あり
+決算届けの開示強化 |
承継 |
・第三者への承継が容易である
・一定の要件が必要であるが、非医師
理事長での運営が可能 |
・解散が難しい
→永続・継続が原則であり、相当な理由が
無い場合、解散できない |
税制 |
・所得分散で税金の軽減が図れる
・損金算入できる経費が増える(役員報酬)
(役員退職金)(生命保険料)
・損失が9年間、継越控除できる
・社会保険診療報酬に対する源泉徴収がなくなる
+設立後2期間の消費税の免税ほか |
・交際費の損金算入に制限
→損金算入限度額がある
+寄付金の損金算入限度額 |
個人事業との比較
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個人事業 |
医療法人 |
基本税率 |
所得税最高税率 45%
住民税 10%
注:復興特別所得税
H25~H49まで基準所得税額×2.1/100
が課せられます。 |
法人税最高税率 23.9%
地方法人税(国税) 3.9501%
住民税最高税率 3.8957% |
事業税率 |
個人事業税標準税率 5%
社会保険診療に対する所得は非課税 |
法人事業税標準率 4.93%
社会保険診療に対する所得は非課税 |
欠損金の繰越控除 |
3年間 |
9年間 |
親族従業者への給与 |
青色事業専従者としての扱い |
親族従業者の理事就任が可能 |
開設者の所得形態 |
個人事業所得 |
理事報酬としての給与所得 |
開設者の退職金 |
なし (小規模企業共済にて対応) |
一定の範囲で支給可能
(損金算入) |
社会保険診療報酬 |
源泉徴収が行われる |
源泉徴収がされない
(資金繰りの改善が期待) |
交際費 |
損金算入限度額再計算なし |
損金算入限度計算あり |
生命保険 |
事業主の保険は、経費とできない |
退職金等の資金準備を節税しながらできる |
1.個人の場合
・事業から生ずる利益について、利益金額に応じて所得税最大45%及び住民税10%が課税される。
2.法人の場合
・理事長は法人から役員報酬を受取り、給与所得控除後の所得金に対して所得税最大45%及び住民税10%が課税される。
・法人に対しては、役員報酬等支払後の利益に対して、800万円までは15%(平成29年4月1日~ 19%)、それ以上については23.9%(H29年4月1日~ 23.4%)の法人税が、また、その法人税に対して17.3%の法人住民税が課税される。
3.相続・解散時
・基金拠出型医療法人の場合、基金の金額で評価し、内部留保等は考慮する必要がない。