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改正医療法とガバナンスの強化について

Point
 平成27年に成立した改正医療法の一部が平成28年9月1日に施行されました。
改正では、医療法人の役員等の責任・権限等について一般社団法人・財団法人の規定の多くが準用されました。
他の非営利法人と比較して不十分であった医療法人のガバナンスが改めて補強された改正といえます。
今回の医療法改正は「地域医療連携推進法制度の創設」と「医療法人制度の見直し」の2つが大きな柱となっています。

医療法改正の柱

① 地域医療連携推進法人制度の創設
② 医療法人制度の見直し
・医療法人の経営の透明性の確保
・医療法人のガバナンスの強化に関する事項
・医療法人の分割等に関する事項
・社会医療法人の認定等に関する事項

法人の意志決定・管理運営機構が明確に規定

「機関」とは法人の意志決定や運営機構、地位にある人のことです。
例えば理事会は、旧法には規定がなく、モデル定款に記載されているのみでしたが、改正により法律上も必置とされました。
また理事会が理事に委任できない事項も規定されるなど、改めて社員総会、理事会等の役割・権限の違いを理解したうえで組織運営が求められます。

医療法人と役員の関係

<改定された医療法の条文>
医療法人と役員の関係は、民法の委任に関する規定に従うこと
 旧法でも医療法人と役員はこの関係にありましたが、改めて規定されたのは大きいといえます。
役員は医療法人から経営の委任を受け、「受任者」としてその任にあたります。委任契約では、受任者に善管注意義務が課されています。(民法第644条)。役員としては、“そのような契約を結んだ覚えはない”と思われるかもしれませんが、一般的には役員に就任する承諾をしたことで、その契約を了解したものとみなされます。
そして、この善管注意義務に違反し、医療法人に損害を与えた場合に、役員には損害賠償責任が発生することになります

役員の損害賠償責任とは

<改定された医療法の条文>
社団たる医療法人の監事は、その任務を怠った時は、当該医療法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 役員が任務を怠り、医療法人に損害が生じた場合には、理事・評議員・監事は善管注意義務に違反したとして、生じた損害を賠償する責任を負います。損害賠償責任を追及する主体としては医療法人と第三者があります。
例えば、医療法人と理事の競業取引や利益相反取引について、法令で求められる理事会での適切な検討を経ずに理事長が独断で行い医療法人に損害を与えた場合など、医療法人から責任を追及される可能性が生じます。
なお、今回の改正によって、理事会の決議に参加し、反対の意志を表明しているにも関わらず、議事録に異議をとどめない場合、その決議に賛成したものと推定されます。議事録の内容の法的効力が規定された重要な改正点です。例えば、医療法人に損害を与えそうな取引が理事会で審議された場合に、異議を議事録にとどめない場合は賛成したものと推定されるため注意が必要です。

役員の責任を免除・限定する方法も規定

一方で、役員の責任を免除・限定する規定も設けられました。全額免除には総社員の同意、一部免除には社員総会の出席社員の3分の2以上の同意が必要です。しかし、この方法はそのときの多数決の状況に左右されるため、事前の対策としては不十分でしょう。
そのために、定款に規定することによって理事会の決議にて一部免除する方法、特定の理事についてあらかじめ「責任限定契約」を締結する方法もあります。特に外部招聘の理事の安心感のためには、このような対策も必要となるかもしれません。