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従業員の個人住民税
~特別徴収の徹底~

Point
 近年、個人住民税の特別徴収の徹底に取り組む地方自治体が増えています。関東を例に挙げると、埼玉・茨城・栃木では平成27年度から、神奈川・千葉では平成28年度からの特別徴収の徹底を通知しています。東京では、平成29年度からの予定です。
 実は、特別徴収の制度は従業員にとってメリットは大きいですが、事業所にとっては負担が大きくなります。
 今回は、「特別徴収とは?」というところから特別徴収が事業所に与える影響まで詳しく説明いたします。

個人住民税の特別徴収とは?

・「普通徴収」と「特別徴収」
 個人住民税(以下、住民税とします。)の治め方には、「普通徴収」と「特別徴収」の2つの方法があります。

(1)普通徴収
 普通徴収とは、納税者本人が税金を納める方法です。
 納税者は、市区町村から送られてきた納税通知書をもとに、自分で住民税を納めることになります。
普通徴収の流れ
普通徴収の流れ
(2)特別徴収
 特別徴収とは、事業所等が納税者の代わりに税金を納める方法です。
 すなわち、診療所(事業所)で、従業員(納税者)の給与から住民税を天引きし、従業員の代わりに住民税を納めます。
特別徴収の流れ
特別徴収の流れ

住民税は特別徴収が原則

 冒頭のように、近年、特別徴収の徹底に取り組む地方自治体が増えています。
 なぜかというと、従業員の住民税については「特別徴収が原則です」と法律で定められているからです(地方税法第321条の4)。
また、特別徴収の方が、税金の滞納を防ぐことが出来るという事も理由の一つにあります。
 しかし、実際のところ普通徴収を採っている事業所は多くあります。本来これは認められていないのですが、従業員が少ないことや、事務処理が大変だといった理由で、黙認されていたという背景があります。
 ただし、今後特別徴収の徹底が進めば、そうはいかなくなるでしょう。

(1)特別徴収手続きの流れ
特別徴収の手続き
特別徴収の手続き
【特別徴収の手続き】(参考:全国地方税務協議会発行パンフレット)
①診療所(事業所)は、毎年1月31日までに「給与支払い報告書」を提出します。

②市区町村は、「給与支払い報告書」をもとに住民税の算定をし、毎年5月31日までに、診療所に「特別徴収税額決定通知書」(事業者用と従業員用)を送ります。

③診療所は、「特別徴収税額決定通知書」をもとに、6月以降のお給料から住民税の特別徴収(給与天引き)をします。

④診療所は、月々に特別徴収した住民税を、その徴収(給与天引き)した月の翌月10日までに従業員がお住まいの市区町村へ納めます。
*注意事項
1.特別徴収は、原則としてアルバイト、パート、役員等すべての従業員から行わなければいけません。
2.従業員の少ない事業所でも、特別徴収しなければいけません。
3.住民税は、従業員の方がお住まいの市区町村ごとに収める必要があります。
4.従業員(納税義務者)の希望により普通徴収を選択することはできません。

特別徴収による診療所への影響

⑴特別徴収による診療所への影響
・事務処理が大変
 ①毎月、住民税を納めなければいけない*
 ②従業員の入退職の都度、一定の手続きをしなければならない
  例)入職に伴う「特別徴収切替届出(依頼)書」の提出
    退職に伴う「給与所得者移動届出書」の提出  等
*ただし、毎月住民税を納めることが大変であれば、「納期の特例」を受けることもできます。これは、従業員数が常時10人未満の場合、各市町村に申請することで、月々の納期を年2回にすることができる、というものです。

・処罰されることも・・?
市区町村から特別徴収税額決定通知が送付されたにも関わらず、特別徴収を行わなかった場合には、「滞納処分の対象」となるとともに、地方税第324条第3項の規程(10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、又は懲役及び罰金 の併科)の対処運となってしまいます。

(2)特別徴収による従業員のメリット
 ①納税の手間が省ける
 ②納付忘れによる滞納や延滞金がかかる心配がなくなる
 ③毎月の給与から天引きされるため、住民税を年12回に分けて納付することになり、普通徴収に比べると、1回あたりの負担が少なく済む(普通徴収では、年4回で納めます)。

 このように、特別徴収に切り替えると、従業員にとってメリットは大きいですが、診療所(事業所)にとっては、負担が大きくなります。しかし、前述の通り、原則は特別徴収です。今後、地方自治体における特別徴収を徹底する動きが益々高まってきますので今後は特別徴収にせざるを得ない状況になるでしょう。