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診療所と地域包括ケアシステム
~診療報酬改定と在宅医療・地域連携の推進~

Point
 今後、どの地域でも病病・病診・診診連携のネットワークの構築が進められます。開業の際には、自院が連携したい機関を考えておきましょう。相手側の医療機関の、地域のネットワークに対する方針を見極めながら関係構築することが必要です。
 また、在宅医療に関与する場合は、看取りや認知症、重症度に対して自院としてどのように推進していくかを考えていくことが必要です。今回(平成28年度)の診療報酬改定では、外来応需の義務を負わない在宅医療専門の診療所の制度化もなされました。しかし、その場合施設基準を満たすことが必要になります。

在宅医療における診療報酬改定

 今回の診療報酬改定では、患者に地域密着思考を促すだけでなく、受け皿となる在宅医療の報酬体系が大きく見直されました。

 平成26年度改定で「特定施設入居時医学総合管理料」が4分の1に縮小されたため、施設などへの訪問方法を意図的に分散するなど苦肉の策に取り組んだ診療所も多いことと思います。
 今回は、一つの建物に居住している患者数により下記の3タイプに分け診療報酬が組み替えられました。

【患者数区分】
 ①1人
 ②2人~9人
 ③10人以上

 極端に言えば、医師の都合に合わせて外来診療の合間に毎日1時間費やしても、外来休診日にまとめて訪問する方法でも、患者人数により同じ診療報酬を得られるようになります。
 また、状態が安定した患者の場合、月1回の訪問のみでも診療報酬が算定できるようになりました。

【表1】
  機能強化型在支診・病 在支診・病 それ以外
区分 病床有 病床無
重症患者
(月2回
以上)
月2回
以上
月1回 重症患者
(月2回
以上)
月2回
以上
月1回 重症患者
(月2回
以上)
月2回
以上
月1回 重症患者
(月2回
以上)
月2回
以上
月1回
在宅時
医学総合
管理料
1人 5,400 4,600 2,760 5,000 4,200 2,520 4,600 3,800 2,280 3,450 2,850 1,710
2-9
4,500 2,500 1,500 4,140 2,300 1,380 3,780 2,100 1,260 2,835 2,835 945
10人
以上
2,800 1,300 780 2,640 1,200 720 2,400 1,100 660 1,800 1,800 510
施設
入居時等
医学総合
管理料*
1人 3,900 3,300 1,980 3,600 3,000 1,800 3,300 2,700 1,620 2,450 2,450 1,230
2-9
3,240 1,800 1,080 2,970 1,650 990 2,700 1,500 900 2,025 2,025 675
10人
以上
2,800 1,300 780 2,640 1,200 720 2,400 1,100 660 1,800 1,800 510
処方箋なしの加算:300点             (平成26年度診療報酬改定の概要(在宅医療関連)を加工)
*施設入居時等医学総合管理料:・有料老人ホーム ・サービス付き高齢者向け住宅 ・認知症対応型グループホーム

 その他、同一建物の範囲として介護保険上の特定施設等を対象としていた概念が整理され、同一建物すべてを対象とし、単一建物という表現に変更となりました。

 単一建物の患者数による訪問診療の管理料の改訂は、患者数による機械的な分け方ではなく、下記の3つの例外が設けられています。患者の状態に応じて適切な在宅療養を管理することが認められたと言えるでしょう。
①1つの患家に同居する同一世帯の患者が2人以上いる場合は、患者ごとに「単一建物診療患者数が1人の場合」を算定する。
②「在宅時医学総合管理料」について、患者数が当該建築物の戸数の10%以下の場合および20戸未満であって、患者が2人以下の場合「単一建物診療患者が1人の場合」を算定する。
③グループホームにおいてユニット数が3以下の場合、それぞれユニットにおいて施設入居時等医学総合管理料(平成29年3月までは在総管を含む)を算出する人数を単一建物とする。
 今回の改訂では単一建物の患者数を意識しないと、収入を安定させることが難しくなります。
訪問ルートからあまり外れない場所で月1回の状態観察で対応できる軽度の患者を増やすなども必要な視点と言えます。
 従来の算定要件を満たすために月2回以上訪問していた場合は、訪問日時を訪問看護や訪問介護に合わせるなどにより、日常の観察点を共有し、月1回の訪問に切り替え、患者数を増やすことも一つの考え方です。
 また、通院が困難であったり、通院頻度が少なくなったりで状態観察が不十分になりがちな外来患者から、在宅患者を開拓することも一策と言えます。

在宅医療専門の在宅療養支援診療所の創設

 今回の診療報酬改定では、主に在宅の重度や看取り対応を専門に行う「在宅医療専門在宅療養支援診療所」が創設されました。全患者のうち在宅患者が95%以上の場合は、「在宅医療専門在宅療養支援診療所」になります。しかし、今後下記の厳しい施設基準を満たすことが要件となります。

【在宅医療専門の在宅療養支援所の施設基準】
①全患者数に占める在宅患者割合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95%以上
②医療機関から初診の情報提供(過去1年)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5か所以上
③看取り(過去1年):20件以上、もしくは重症小児診療:10件以上
④全在宅医療に占める施設入居時等医学総合管理料の割合・・・・70%以下
⑤要介護3以上、もしくは医療依存度の高い患者・・・・・・・・・・・・・・・50%以上
 施設基準を満たせない、現在形式だけ外来機能を持つ在宅療養支援所(機能強化型を含む)は、前年度の実績を考慮し、平成29年3月末までに下記の3つのいずれかの対応をしていかなければいけません。

1) 在宅専門の*開設基準および施設基準を満たす。
2) 在宅患者の割合を95%未満にする。
3) 在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の減算(20%)

*【在宅医療専門の在宅療養支援所の開設要件】
①無床診療所である。
②在宅医療を提供する地域をあらかじめ規程している。
③外来診療が必要な患者が訪れた場合に対応できるよう、地域医師会からの協力の同意を得ている、または②の地域内に協力医療機関を2か所以上確保している。
④規定した地域内において在宅医療を提供、在宅医療導入に係る相談に随時応じる、医療機関の連絡先等を広く周知。
⑤求めに応じて医学的に必要な往診や訪問診療に関する相談を行い、医学的に正当な理由等なく断ることがない。
⑥診療所において、患者・家族等からの相談に応じる設備・人員等の体制を整えている。
⑦緊急時を含め、随時連絡に応じる体制を整えている。
  機能強化型在支診 在支診
単独型 連携型
全ての在支診が
満たすべき基準
①24時間連絡を受ける体制の確保
②24時間の往診体制
③24時間の訪問看護体制
④緊急時の入院体制
⑤連携する医療機関等への情報提供
⑥年に1回、看取り数等を報告している
全ての在支診が
満たすべき基準
⑦在宅医療を担当する常勤の医師
3人以上
⑦在宅医療を担当する常勤の医師連携内で
3人以上
-
⑧過去1年間の緊急往診の実績
10件以上
⑧過去1年間の緊急往診の実績が連携内で
10件以上・各医療機関で4件以上
⑨過去1年間の看取りの実績
または超・準超重症児の
医学管理の実績いずれか4件以上
過去1年間の看取りの実績が連携内で
4件以上、各医療機関で看取りの実績または
超・準超重症児の医学管理の実績
いずれか2件以上
在宅患者が
95%以上*の在支診が
満たすべき基準
⑩5か所/年以上の医療機関からの新規患者紹介実績
⑪看取り実績が20件/年以上または超・準超重症児の患者が10人/年以上
⑫(施設総管の件数)/(在総管・施設総管の件数)≦0.7
⑬(要介護3以上の患者 + 重症患者)/(在総管・施設総管の件数)≧0.5
(平成28年度診療報酬改定の概要 厚生労働省保健局医療課資料より)
*在宅患者が95%以上とは、1カ月に初診、再診、往診または訪問診療を実施した患者のうち、往診または訪問診療を実施した患者の割合が95%以上。