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平成28年度診療報酬改定の影響

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「機能分化と経営」「かかりつけ医」「在宅医療」

 今回の診療報酬改定のキーワードは「機能分化と連携」「かかりつけ」「在宅医療」と言えます。
 在宅医療を手厚くし、診療所と病院の機能分化と連携を推進することによって、増え続ける医療費の伸びを抑制する狙いがあります。
 今改定には、団塊の世代が75歳以上(後期高齢者)になりきる2025年までに、医療・介護の体制整備をすべく、メッセージがこめられています。
診療所と病院の機能分化(外来の役割分担)
診療所と病院の機能分化(外来の役割分担)

医療機能の分化・強化 / 外来医療の機能分化

 「外来の機能分化・連携の推進」としては、かかりつけ医の普及を図り、かかりつけ医が、患者の状態や価値観もふまえ、医療をサポートする「ゲートオープナー」機能を確立するというメッセージが込められています。
 ちなみに、「ゲートオープナー」という言葉は、厚生労働省が平成27年6月に公表した「保健医療2035」のなかでも取り上げられています。
 大病院の側には、紹介状なしで大病院を受診した場合の定額負担が導入されました。
 特定機能病院及び一般病床500床以上の地域医療支援病院については、現行の選定療養の下で、定額の徴収を責務とされました。
定額負担
・初診:5,000円以上(歯科は3,000円以上)
・再診:2,500円以上(歯科は1,500円以上)
 一方、患者がアクセスしやすい主治医機能の評価、小児に対するかかりつけ医の評価、地域包括診療料・地域包括診療科加算の施設基準の緩和がなされました。

在宅復帰のさらなる促進

 7対1病棟の在宅復帰率が75%から80%に引き上げあられ、退院患者のうち「自宅等に退院した患者」としてカウントされる退院先の対象が拡大され、今回新設の「有床診療所在宅復帰機能強化加算」を算定する有床診療所が加えられました。地域包括ケア病棟・入院医療管理料の退院先にも同じ変更がなされました。

かかりつけ医の機能の強化

 高齢化が進む中で、できる限り住み慣れた地域や自宅で医療と介護を受けられるよう、継続的かつ全人的な医療等を実施できるよう、今回定では「かかりつけ医」「かかりつけ歯科医」「かかりつけ薬剤師・薬局」の役割を果たす医療機関、調剤薬局に評価が行われました。
 地域包括ケアシステム推進のための取り組みとして、複数疾患を有する認知症患者に対して、継続的かつ全人的な医療等を実施する場合の主治医機能としての評価が行われました。

 今回新たに「認知症地域包括診療料(1,515点)」、「認知症地域包括診療加算(30点)が設けられました。施設基準としては、それぞれ地域包括診療料、地域包括深慮加算の届出を行っていることが必要です。
 なお、従来の地域包括診療料・加算に係る常勤医師の施設基準については、3人から2人へ緩和されました。
認知症地域包括診療料等の概要
診療所と病院の機能分化(外来の役割分担)
*1 当該月の薬剤料、550点以上の検査、画像診断、処置等以外の費用が当該点数に含まれる。
*2 地域包括診療料に係る2時救急指定病院等の施設基準については、平成28年度改訂で廃止し、要件を緩和。
(厚生労働省資料より)

在宅医療専門の無床診療所開設が可能に

画期的な内容は、外来を行わなくても在宅医療専門の診療所を開設できるようになったことです。施設基準としては、現行の機能強化型の在支診の施設基準に加え、所定の要件が求められます。
施設基準
①在宅医療患者の占める割合が95%以上
②年間の在宅看取り20件以上等
③居宅患者30%以上
④要介護3以上又は医療依存度の高い患者の割合が50%以上  など

在宅医療

 在宅医療においては重症度や居住場所に応じた評価がなされました。
 在宅時医学総合管理料は、月2回以上の訪問に限り算定可能でしたが、今改定で新たに月1回という枠が設けられました。2回以上訪問に比べて収入は低くなりますが、家族のケアが見込める患者や状態の安定した患者には訪問を月1回とし、新たに在宅医療を必要としている他の患者へ対応していく余力が拡大したと言えるでしょう。
 施設への訪問診療は、その建物の何人の患者に診療を行うかによって区分され、1人、2~9人、10人以上の3通りの診療報酬が設定されました。特定施設入居時等医学総合管理料の名称から「特定」が外れ、対象施設に有料老人ホーム・サ高住・認知症グループホームが新たに追加され、末期がんや人工呼吸器を使用する重症度の高い患者の評価が充実されました。
 看取りも重視され、緩和ケアに実績のある機能強化型の在支診への評価である「在宅緩和 ケア充実診療所」という加算が登場しました。
 訪問看護についても、病院・診療所からの訪問看護をより評価し、手間のかかる重症患者への訪問看護が評価されています。

職員の柔軟な勤務体系を認める

基本診療料、特掲診療料における常勤の考え方が明確化されました。
 ①職員が育児・介護休業を取得中の期間、施設基準上求められる資質を有する複数の非常勤従 事者を常勤換算して人員に含められます。
 ②育児休業後等に短時間正職員として勤務する場合、法で定める期間は週30時間以上の勤務で  常勤扱いができます。
職員のワークライフバランス上、このような施策をうまく活用することも必要となります。
 2年後の2018年4月には診療報酬・介護報酬のダブル改定があります。同年は、「骨太の方針2015」の集中改革期間の終了年でもあり、医療・介護提供体制の適正化等の進捗状況が政府一体となって確認されることとなります。
 2025年に向けた国の政策の方向性を踏まえて改定内容を早急に検討し、自院の理念・戦略に基づき対応が必要な事項について、早めの経営判断を行う事が求められます。