ひとくち税務・経営講座>知っておきたい税務用語:第2回 開業費について

知っておきたい税務用語

第2回

開業費について

開業費とは・・・

開業費の定義
事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出した費用
 開業費は、通常の必要経費として計上するのではなく、「開業費」として一度「繰延資産」に区別して処理します。
 「開業費」はその支出の効果がその年だけはなく、1年以上に及ぶので、基本的に5年間(60カ月)で償却します。 償却の方法は、5年間で均等に償却しても良いですが、任意償却で好きな時に好きなペースで償却することが認められています。
 これは重要な節税ポイントになります。

任意償却

開業費の任意償却について説明します。
 開業費は、初年度に全額を経費処理してしまうこともできます。しかし、開業後、何年か経過してクリニックの経営が軌道に乗り、利益が多く出るタイミングで償却することもできます。つまり、開業費をいつ償却するかによって、納税額が変わってきてしまうということになります(累進課税で高くなった税率に充てることで節税)。
 ただ、年末近くに開業された先生で以前の勤務先でかなりの給与をもらっている場合や、2年目以降に措置法26条(医業の概算経費)の活用を考える場合など、初年度に経費処理をしてしまった場合が良いケースもありますので、このあたりの判断は医業に強い会計事務所等に相談することをお勧めします。

開業費になるもの・ならないもの

 「開業のために特別に支出した費用」でも開業費として処理するものと別の処理をするものがあります。
開業費として処理するもの
•開業セミナー等への参加費
•打合せ・相談等のための打合せ費用
•現地視察・打合せ等のための交通費
•開業している医師・各関係者・業者への手土産
•開業手引書等の研修図書・医院で使う図書
•開業候補地の登記簿謄本費用
•担保物件の調査費用
•金銭消費貸借契約書の印紙代(運転資金)
•抵当権設定料
•売買契約書(土地)・請負契約書(建物)の印紙代
•開業時までの借入金の支払利息 (*固定資産取得(土地・建物・医療機器等)に当てたもの以外)
•人材募集広告料
•人材紹介会社に払う手数料
•面接時の経費
•従業員研修費用
•開院時広告宣伝費
•開業祝賀会費用・内覧会費用
•開業前の家賃(テナント料)・水道光熱費
•開業お祝い返し(家族・親戚以外)
•開業前に支払った診療所で使う備品・消耗品代 (*1個・1セット10万円未満)
開業費として処理しないもの
•家族・親戚との打合せの飲食費  •生活費(店主貸)
•家族・親戚への手土産  •生活費(店主貸)
•土地・建物の明け渡し費用  •土地・建物の取得価額
•土地・建物の取得のための仲介手数料  •土地・建物の取得価額
•土地を取得するために要した建物の取り壊し費用  •土地・建物の取得価額
•地鎮祭・上棟式の費用  •土地・建物の取得価額
•建物の建設費用  •土地・建物の取得価額
•医師会入会金  •その他の繰延資産
•診療所を借りるために支払った礼金  •その他の繰延資産
•診療所を借りるために支払った敷金  •無形固定資産
•開業前に支払った診療所で使う備品・消耗品代(1個・1セット10万円以上)  •固定資産
•電話加入権  •無形固定資産
•薬品や診療材料の購入代  •棚卸資産
•開業時までの借入金の支払利息*固定資産取得(土地・建物・医療機器等)に当てたもの)  •資産の取得価額
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Case「 事業を新しく始める際に、建物を借りる場合」

 建物を賃借する場合、礼金・保証金・仲介手数料等が必要な場合が多いでしょう。その場合の処理についてもう少し詳しくご説明します。

① 礼金
 税法上、「資産を賃借しまたは使用するために支出する権利金、立ち退き料その他の費用」は「繰延資産」との一つとしています。 つまり、テナントを賃借するに当たりオーナーに支払った金銭のうち、「返還されないもの」については繰延資産に該当することになりますので、礼金は繰延資産となります。更新料も同じ扱いです。
 この場合の償却期間は、下記の表1のとおりです。

≪表1≫
  細目 償却期間
建物を賃借するために支出する権利金等 ⑴ 建物の新築に際し支払った権利金等の額が、その建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ建物の存続期間中賃借できるもの 建物の耐用年数の70%
⑵ 借家権として転売できるもの 賃借後の残存耐用年数の70%
⑶ 上記以外のもの 原則5年
(契約の賃借期間が5年未満で、かつ契約更新時に再び権利金等の支払いを要する場合はその契約期間)
  最近の一般的な建物賃貸借契約は、ほとんど表の一番下の「⑶上記以外のもの」に該当するでしょう。
例えば「礼金60万円、契約期間3年で更新可」という物件であれば60万円を契約期間の3年で均等償却することになります。

② 保証金
  保証金は、基本的には解約時に返還されますが、あらかじめ返還されないことが決まっている契約があります。例えば、「保証金800万円、退去時に20%の償却」と合った場合は、その変換されない部分の金額は、前述の礼金と同様に繰延資産となります。

③ 仲介手数料
  建物賃借時の仲介手数料は、繰延資産として処理する必要はありません。開業費としての処理ができます。
  (*前述の、「開業費にできないもの」の土地・建物の取得のための仲介手数料」とは異なります。)

開業費っていつの分から認められるの?

 開業準備の時期というのは税法上では、時期の制限を設けていません。開業を思い立って準備をはじめたときからかかった費用は開業費となります。ただし開業の何年も前に購入したものなどで、不自然さが残る場合は税務調査の際に疑問を持たれるケースもあります。購入したものの領収書などに、なんのための費用だったかを記録してしっかり保存しておきましょう。