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第十二回医療機関と働き方改革関連法

平成30年6月29日働き方改革関連法が、参議院で自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決、成立しました。

中小企業規模の医療機関において対応すべき項目としては次表のとおりであり、医師についての時間外労働の上限規制に5年間の猶予期間が設けられたほかは、除外規定はありません。こうした中、7月9日に行われた医師の働き方改革に関する検討会において、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」の実施状況について報告されました。引き続き、時間外労働の上限設定などを検討会において議論中であり、平成31年3月末までに結論が示される予定です。

◆ 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」(医療機関の規模別の適用関係(概要))

※厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の概要」第8回医師の働き方改革に関する検討会資料より

労働時間の状況の把握

上記の項目のうち、「労働時間の状況の把握」については、平成30年2月27日に「医師の働き方改革に関する検討会」において発表された「中間的な論点整理」及び「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」のなかでも、「取組を行う上では実態を把握することが重要であることから、まずは医師の在院時間について、客観的な把握を行う」として、第一に掲げられています。

第8回医師の働き方改革に関する検討会における「『医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組』の実施状況について」の報告内容によれば、概ねこの取組は進んでいるとも言えます。

※厚生労働省「『医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組』の実施状況について」第8回医師の働き方改革に関する検討会資料より

次に、在院時間の把握が可能になったとして、医師の場合、自己研鑽や宿日直等の取扱いによっては、在院時間と実際の労働時間が区別できないという問題が出てきます。
この点について、「医師の働き方検討会議」の「医師の働き方改革に関する意見書」では、①自己研鑽、②宿日直、③オンコール待機を一般の業種とは大きく異なる特徴と位置づけて、それぞれの項目について整理しています。
とくに、医師の自己研鑽が病院の指揮命令のもとで行われているか否かについては、客観的な判断は非常に難しいと思われます。

医師の労働と自己研鑽の区分例
明らかな労働
労働と自己研鑽の
二面性のある活動
純粋な自己研鑽
カルテ・診断書作成
委員会・会議
カンファレンス
研修医教育
地域連携業務 等
手術見学
学会発表
論文作成
文献検索 等
自主的勉強会
学会参加(発表無) 等

※医師の働き方検討会議「医師の働き方改革に関する意見書」第8回医師の働き方改革に関する検討会資料より筆者作成

割増賃金の種類と割増率

仮に、医師の労働時間が特定できたとした場合、続いて問題となるのは割増賃金の計算です。労働基準法では、法定労働時間を超えてさせる時間外労働、法定休日にさせる休日労働、午後10時から午前5時までの深夜労働に対し、割増賃金の支払いを義務づけています。なかでも、1か月60時間を超える時間外労働に対しては、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないこととなります。(労働基準法37条、労働基準法施行規則19,20,21条)

具体的な割増率は次のとおりです。

 ※東京労働局パンフレットより

1時間あたり賃金の計算

月給制や年棒制等であっても、次の計算式により、1時間あたりの賃金に換算してから計算します。

ここでいう諸手当の中で、割増賃金の額に算入しなくてもよい手当は、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7種類のみです。さらに、①~⑤までの手当は、家族数、通勤のかかる実費・通勤距離や家賃等に比例して支給するものに限定されています。どのような名称を付けた手当であっても、実態がこの7種類以外の手当である場合には、必ず割増賃金の基礎に算入しなければなりません。

◆年俸制でも割増賃金は必要か?

賃金の支払形態によって割増賃金の支払いが免除される規定はなく、時間外労働等に対し割増賃金の支払いが必要です。

なお、年俸に割増賃金を含むことが契約上明らかであり、割増賃金相当部分(何時間分でいくらになるか)が他の部分と明確に区別でき、かつ、法定金額以上支払われた場合は法違反ではありません。

◆1年間における1か月平均所定労働時間

一般的に1日の所定労働時間は、所定の出勤から退勤までの時間から休憩時間を引いて求めます。季節や曜日により1日の所定労働時間が変わる場合には、1年間で通算した所定労働時間を 12(か月) で割って算出します。

この規定に従えば、医療機関職員の場合、各人ごとに所定労働時間が異なるといったケースも発生します。現実に対応可能な制度づくりを行うためには、さらなる検討が必要になります。

医療機関と働き方改革

労働環境の改善は、医療機関だけでなく、いまや国全体に関わる課題です。すなわち、少子高齢化による労働力人口の減少に対し、働き手の増加、出生率の上昇、生産性の向上に取り組むというのが「働き方改革」の目的といえます。これらの目的を達成するために、長時間労働の是正、正規・非正規の不合理な格差の是正、女性・高齢者の就労促進、などの取り組みが現在進行形で行われています。

医療機関では、以前から「職員が定着しない」「恒常的な採用難」「業務効率が低い」などといった問題を抱えています。そこへ、「働き方改革」の波が押し寄せてきて、いよいよ抜本的な解決を求められるようになってきました。

確かに、一般企業の従業員と医療従事者とでは、働くことに対する考え方は異なるものと考えられます。「目の前に患者さんがいたら、助けたい」というのが医療従事者としての基本的な考え方でもあり、モチベーションにもなっているはずです。また、そもそも人員に余裕があるわけではない状況で、すべての職員に労働時間規制を当てはめると、日本の医療は成り立たないということは、おそらく誰もが実感しているところです。

他方、経営者側の人材に対する考え方も一般企業と医療機関では異なります。一般企業であれば、理論上、新たな事業・人材を拡充することで、無制限に組織の成長を計画できますが、医療機関は診療報酬が決まっているため、国内どころか地域のニーズによって収入の上限がある程度明確であり、増員したからといって、経営的に必ずしもプラスに働くとは限りません。

とはいえ、24時間365日患者さんのために働き続けるような時代には戻れないのも事実です。様々な職員が活躍できる体制を整えていかなければ、今後の流れには対応できません。医療機関の経営者の皆様には、何かを始めなければならないと考えていらっしゃる方も多いと思われます。

これまで見てきたように問題は山積みですが、少なくとも、職員が働きやすい環境を作るべきという意識は芽生えたでしょうか。こうした意向があれば、それを示すことが第一のステップです。そして、経営者が行うべき最も重要なことはたった一つであると考えます。それは、現場の職員との対話です。

弊社のお客様と接していると、現場の医療従事者には高い倫理観を持つ方がたくさんいらっしゃることを感じます。なかには、心の中で具体的な改善策を思い描いている方もいます。そのため、議論が紆余曲折しても、最後には改善のため前向きな姿勢になることができるだろうという印象を受けます。「働き方改革」は経営者だけで対応するのではなく、現場の職員と一丸になって取り組んでいただきたいと思います。