成功する医療経営のアドバイスTOP > 第十一回-医師の働き方改革と年次有給休暇

平成30年2月27日、医師の働き方改革に関する検討会において、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」が発表されました。その内容には、現行の労働法制により当然求められる事項も含まれており、これまで、医療において医師の労働に関しては聖域とされてきたことを示しているともいえます。引き続き、時間外労働の上限設定などを検討会において議論中であり、平成31年3月末までに結論が示される予定です。
そうした中、平成30年5月31日、働き方改革関連法案が衆議院で可決されました。医師については、時間外労働の上限規制に5年間の猶予期間が設けられた一方で、年次有給休暇の取得促進策等には、除外規定はありません。法案によれば、年間5日は病院側主導で取得させるよう義務づけられるという内容です。今回は年次有給休暇の基本について取り上げます。
| 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱 | ||
|---|---|---|
| (略) ・年次有給休暇(第三十九条第七項及び第八項関係) 1 使用者は、年次有給休暇の日数が十日以上の労働者に対し、年次有給休暇のうち五日については、基準日(略)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならないものとすること。ただし、年次有給休暇を当該年次有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならないものとすること。 2 1にかかわらず、労働者の時季指定又は計画的付与制度により年次有給休暇を与えた場合は、当該与えた日数分については、使用者は時季を定めることにより与えることを要しないものとすること。 (略) | ||
※厚生労働省ホームページより
年次有給休暇は、雇入れの日から6か月継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、次の表のとおり、付与されます。
| 継続勤務年数(年) | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
| 有給休暇付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
◆ 週所定労働時間数が30時間未満の場合
パート、アルバイト、非常勤職員等、所定労働日数や所定労働時間数が少ない労働者についても、年次有給休暇は付与されます。
医師のなかには短時間労働だけで生計を維持している「フリーター医師」も存在すると言われています。フリーター医師は、一般の労働市場と状況は大きく異なり、非正規・短時間での働き方を自ら選択している場合も多いと思われます。こうした自由で自律的な働き方の場合、どのように年次有給休暇の権利を行使するか、運用に工夫が必要となります。
労働日数 |
労働日数 |
|
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| 6か月 | 1年 6か月 |
2年 6か月 |
3年 6か月 |
4年 6か月 |
5年 6か月 |
6年 6か月以上 |
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| 4日 | 169日~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 | ||
| 3日 | 121日~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | ||
| 2日 | 73日~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | ||
| 1日 | 48日~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 | ||
◆継続勤務の要件
継続勤務とは、在籍期間を意味しています。したがって、試用期間や休職している期間も通算されます。また、継続勤務かどうかは実態をみて判断されます。例えば、定年後の再雇用や、アルバイト・パートから常勤職員へ切り替わった場合も継続勤務しているものと取り扱われますので、勤続年数を通算しなければなりません。
◆年次有給休暇の請求権
年次有給休暇の請求権は、労働基準法115条の規定により、基準日から起算して2年間で時効によって消滅します。
◆年次有給休暇中に支払われる賃金
次のいずれかになります。
①平均賃金
②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
③標準報酬日額(労使協定が必要)
①~③のいずれにするかは、就業規則に定めることが必要です。
年次有給休暇を取得する時季については、労働者に時季指定権があります。
なお、その指定した時季が事業の正常な運営を妨げる場合には、事業主に休暇取得時季の変更権が認められています。ただし、あくまで「変更」する権利のみですので、退職前で変更する余地がない場合には、変更権を行使できません。したがって、法律的には認めざるを得ないこととなり、労働者との対話を通して調整を図るしかないという結論になります。
また、事業の正常な運営を妨げるかどうかは、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断されるべきものです。しかし、判例等の動向をみると事業の正常な運営を妨げるかどうかは極めて限定的に解されており、日常的に業務が忙しいことや慢性的に人手が足りないことだけでは、この要件は充たされないと考えられます。
◆年次有給休暇を請求するタイミング
就業規則に「○○日前までに申請しなければならない」といった申請期限の設定は、労働者にとって著しく不利なものでない限り有効です。これは、事業主側に「時季変更権の行使について時間的余裕を与えるものであり、代替要員の確保を容易にするものであり、会社が時季変更権の行使をなるべくしないための配慮からなされた制限である場合に、合理的な制限である」ためと解されています。
年次有給休暇の計画的付与は、労使協定で年次有給休暇を与える時季について定めをした場合で、年次有給休暇のうち5日を超える部分(繰越分を含みます。)に限ります。つまり、最低5日は完全自由に取れるように設定しなければなりません。
付与方法としては、事業場全体の休業による一斉付与だけでなく、グループごとや年休計画表などによる個人別付与などが考えられます。
年次有給休暇の計画的付与制度の導入には、就業規則による規定と労使協定の締結が必要になります。
なお、この計画的付与制度を利用して与えた休暇も「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」の「年間5日」に含まれます。
| 計画的付与の導入手順 | ||
|---|---|---|
![]() 年次有給休暇の計画的付与制度を導入する場合には、 まず、就業規則に「5日を超えて付与した年次有給休暇 については、従業員の過半数を代表する者との間に協定 を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的 に取得させることとする」などのように定めることが必 要です。 (2)労使協定の締結 実際に計画的付与を行う場合には、就業規則の定める ところにより、従業員の過半数で組織する労働組合また は労働者の過半数を代表する者との間で、書面による協 定を締結する必要があります。 なお、この労使協定は所轄の労働基準監督署に届け出 る必要はありません。 労使協定で定める項目は次のとおりです。 a. 計画的付与の対象者(あるいは対象から除く者) b. 対象となる年次有給休暇の日数 c. 計画的付与の具体的な方法 d. 対象となる年次有給休暇を持たない者の扱い e. 計画的付与日の変更 | ||
※福岡労働局ホームページを参考に筆者作成
◆ 年次有給休暇の日数が不足する者の取扱い
入職してから6か月未満で権利が発生していない労働者や年次有給休暇残日数の少ない労働者については、計画的付与の対象とすることはできませんので、次のいずれかの措置をとります。
(1) 特別休暇を設けて、付与日数を増やす。
(2) 休業手当として平均賃金の60%を支払う。
年次有給休暇の本来の趣旨は、一定期間継続的に心身の休養を図ることにあります。したがって、年次有給休暇は日単位で取得することが原則です。しかし、仕事と生活の調和を図る観点から、年次有給休暇を有効に活用できるようにすることを目的として、次のような制度も認められています。
◆半日単位取得
労働者が希望し、使用者が同意した場合であれば、労使協定が締結されていない場合でも、1日単位取得の阻害とならない範囲内において半日単位で与えることが可能です。
半日単位取得制度では、「半日」をどこで区切るか、という点で問題になるケースが多数存在します。そのため、「半日」の定義や半日単位の区分を就業規則にあらかじめしっかりと定めておく必要があります。
◆時間単位取得
労使協定を締結すれば、年に5日相当分を限度として、1時間単位で年次有給休暇を与えることができるようになります。あくまで1時間単位なので、分単位など1時間未満の単位は認められません。また、労働者の請求に基づくものであることから、計画的付与として時間単位年休を与えることはできません。
年次有給休暇の計画的付与制度の導入には、就業規則による規定と労使協定の締結が必要になります。同時に、日単位と時間単位それぞれについて取得数と残数をしっかり管理する方法を事前に検討しておくことも重要です
| 時間単位の年次有給休暇の導入手順 | ||
|---|---|---|
![]() a.時間単位年休の対象労働者の範囲 一部対象外とする場合は、「事業の正常な運営を妨げ る場合」に限られます。 b.時間単位年休の日数 1年あたり5日以内の範囲で定めます。 c.時間単位年休1日の時間数 1日分の年次有給休暇が何時間分の時間単位年休に 相当するかを定めます。1時間に満たない端数がある 場合は時間単位に切り上げます。 d.1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数 この場合は、2時間単位、4時間単位など、1日の 所定労働時間数を上回らない整数の時間単位で定めま す。 (2)就業規則の変更及び労使協定の締結
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※「労働関係法のポイント 愛知版」を参考に筆者作成