成功する医療経営のアドバイスTOP > 第九回-医師の働き方改革と労働条件の明示
平成30年2月27日、医師の働き方改革に関する検討会において、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」が発表されました。その内容には、現行の労働法制により当然求められる事項も含まれており、それほど医師の働き方が深刻な状況におかれていることを示しているといえます。
多くの医師は、そもそも働き始めるにあたって、一般企業のような就職活動等を経るわけではなく、学生時代の生活からシームレスに働き始めます。法律論としては、雇用関係は労働契約を締結することによって始まります。何事も「はじめが肝心」と言われますが、医師の働き方を考える上で、そのような区切りの曖昧な状態で雇用関係が始まる点も問題を複雑化させている要因のひとつであると思われます。
労働基準法15条により、使用者は労働者を採用するときは、賃金、労働時間その他の労働条件を書面で明示しなければならないとされています。また、労働契約法4条では、「使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする」として、努力義務を規定しています。
過労死問題への対応などを目的に設立された全国医師ユニオンが平成30年2月に示した「勤務医労働実態調査2017」では、雇用契約書がない医療機関は14.5%、「わからない」という回答が28.3%あるようです。
※出典:ドクターズ・ユニオンニュース No.23(2018年2月20日)より
明示された労働条件と事実が相違している場合には、労働者は即時に労働契約を解除することができます。また、法定の基準を下回る労働条件は、労使間の合意があっても無効です。
医師を1人雇えば、年間でそれなりの支払が発生することになります。大きな金額が動くのにもかかわらず契約書が無いという状態では、労使双方に認識のズレが有り、トラブルになる場合も少なくありません。無用なトラブルを避けるという意味でも、採用時において、口頭での曖昧な契約ではなく、書面で労働契約を明示し確認することが、労務管理の第一歩と言えます。
労働条件の明示事項 | |||
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書面の交付による明示事項 | 口頭の明示でもよい事項 | ||
(1) | 労働契約の期間 | (7) | 昇給に関する事項 |
(2) | 有期労働契約を更新する場合の基準 | (8) | 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払時期に関する事項 |
(3) | 就業の場所・従事する業務の内容 | (9) | 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項 |
(4) | 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換(交替期日あるいは交替順序等)に関する事項 | (10) | 労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項 |
(5) | 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項 | (11) | 安全・衛生に関する事項 |
(6) | 退職に関する事項(解雇の事由を含む) | (12) | 職業訓練に関する事項 |
(13) | 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項 | ||
(14) | 表彰、制裁に関する事項 | ||
(15) | 休職に関する事項 |
出典:兵庫労働局ホームページより筆者作成
なお、(1)~(7)は必ず明示しなければならない事項で、(8)~(15)は制度を設ける場合に明示しなければならない事項です。口頭の明示でもよいとされている項目であっても、後のトラブルを防ぐため、書面での通知が望ましいと思われます。
◆アルバイト等への明示義務
アルバイトなどの短時間労働者については、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関するる法律」の定めにより、上記に加え、次の通り明示すべき項目が増えます。なお、この明示義務に違反すると、罰則の対象になります。
◆有期労働契約の場合の明示義務
有期労働契約の場合、締結時に追加して明示しなければならない事項は次の通りです
労働者がいれば、医療機関の規模により、各種社会保険に加入し、保険料を納める義務が発生します。
■各種保険の加入基準
個人事業 | 法人 | ||
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従業員5人未満 | 従業員5人以上 | ||
労災保険 | 強制 | 強制 | 強制 |
雇用保険 | 強制 | 強制 | 強制 |
健康保険 介護保険 |
任意 | 強制 | 強制 |
厚生年金保険 | 任意 | 強制 | 強制 |
特に健康保険・厚生年金保険について、法人の事業所は、労働者を1人でも雇えば、強制加入となります。日本年金機構では、未適用の事業所に対する調査を強化しています。
■各種保険の主な特徴
労災保険 | |
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雇用保険 | |
健康保険 介護保険 |
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厚生年金保険 | |
これらの基準は、採用時に労働条件としての「所定労働時間数」や「所定労働日数」が明確にされているという前提で制度設計されています。雇用契約上の所定労働時間数や所定労働日数が曖昧な場合には、実質で判断されます。
多忙を極める業務の中で、労働条件の明示が疎かになってしまうケースもありますが、法律で決まっているからという意味合いだけでなく、働き始めの一つの区切りとして、労使の信頼関係を築くためにも、労働条件の明示は重要なものとなります。