成功する医療経営のアドバイスTOP > 第三回 医師の働き方改革と宿日直勤務
衆議院の解散により、「働き方改革」関連法案の国会審議は先送りになりました。政局を優先しているようにも見えますが、真に医師の働き方を改善するつもりならば、引き続き、各医療機関のトップに加えて、診療科ごとの所属長等の現場における意識改革も啓蒙していく必要があると思います。
前回にも少し触れましたが、医師の労働を過酷なものとしている主な要因に、①宿日直勤務(当直)②名ばかり管理職が考えられます。
今回は、①宿日直勤務(当直)について解説します。一般的に、医師の当直の中でも夜間の時間帯に勤務する医師の事を宿直医師と呼び、休日や祝日など普段の診療時間外で、かつ日中に勤務する医師の事を日直医師と呼びます。
宿日直勤務の根拠は労働基準法41条及び労働基準法施行規則23条にあります。この規定により、宿日直勤務者については、労働基準監督署長の許可を得たうえで、労働基準法上の労働時間、休憩、休日に関する規定は適用が除外されます。
このような規制の適用除外が認められる宿日直については、昭和63年の通達(昭22・9・13発基17号、昭63・3・14基発150号)で、労働者保護の観点から許可は厳格な判断のもとに行われるべきであるとして、勤務の態様は常態としてほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであること、宿直勤務については相当の睡眠設備の設置を条件とするものであること、などが示されています。
医療法16条には、「医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない」と規定されていることもあり、特に医師・看護師については、①通常の勤務時間の拘束から完全に解放されたものであること、②軽度又は短時間の業務に限ること、③夜間に充分睡眠がとりうること、などというように、別枠で詳細な基準が設けられています。
具体的には、病室への定時巡回、少数の要注意患者の定時検脈、検温等といった軽度の又は短時間の業務内容に限り許可が出ることになっています。
多くの宿日直勤務は、通常勤務の延長であるという意見もありますが、行政通達では、次のように取り扱われることとなっています。
(1)宿日直勤務中に通常の労働が突発的に行われる場合
宿日直勤務中に救急患者への対応等の通常の労働が突発的に行われることがあるものの、夜間に充分な睡眠時間が確保できる場合には、宿日直勤務として対応することが可能ですが、その突発的に行われた労働に対しては、次のような取扱いを行う必要があります。
① 労働基準法第37条に定める割増賃金を支払うこと
② 法第36条に定める時間外労働・休日労働に関する労使協定の締結・届出が行われていない場合には、法第33条に定める非常災害時の理由による労働時間の延長・休日労働届を所轄労働基準監督署長に届け出ること
(2)宿日直勤務中に通常の労働が頻繁に行われる場合
宿日直勤務中に救急患者の対応等が頻繁に行われ、夜間に充分な睡眠時間が確保できないなど常態として昼間と同様の勤務に従事することとなる場合には、たとえ上記(1)の①及び②の対応を行っていたとしても、宿日直勤務の許可基準に定められた事項に適合しない労働実態であることから、宿日直勤務で対応することはできません。
したがって、現在、宿日直勤務の許可を受けている場合には、その許可が取り消されることになりますので、交代制を導入するなど業務執行体制を見直す必要があります。
この通達は、県立奈良病院の産婦人科医が割増賃金の支払いを求めた訴訟における、平成25年2月12日、最高裁第三小法廷(大谷剛彦裁判長)による上告不受理決定で、より重要な効力を持つことになりました。
換言すれば、当直代として定額しか出していない病院は、医師が裁判所に訴えれば、ほぼ確実に負けます。上記(2)の「宿日直勤務中に通常の労働が頻繁に行われる場合」に該当しないとしても、「当直代+診療した部分の時間外手当」を出す必要があることになります。
宿直勤務については、常態として、ほとんど労働する必要のない勤務のみを認めるものです。このため、宿直勤務を行ったとしても、翌日の勤務へ大きな影響はないものと通常考えられ、所轄労働基準監督署長の許可を適法に受けている場合は、法律上翌日の勤務を禁止するものではありません。
ただし、宿直勤務の時間中に常態として通常業務を行っており、実態は宿直勤務ではなく夜勤とみなされる状態であれば、勤務間インターバル規制(※)が導入された場合には、見直しを迫られることになります。
日本病院会の調査によると、宿直明けに通常通りの勤務をする割合は、平成18年には約89%であったものが、平成27年には約60%と、当直明けに対するかなりの配慮がなされたことがわかります。
出典:一般社団法人 日本病院会 平成27年 地域医療再生に関するアンケート調査報告書
※勤務間インターバル規制:勤務と勤務の間の時間を11時間以上あけて、「休息期間」を確保するという制度